前世代の常識

 川端康成が「新文章読本」で、近代以降の日本の小説の「文章上の功労者」として、その文体を特に讃えるのは、泉鏡花、徳田秋声、武者小路実篤、志賀直哉、 里見弴、菊池寛、宇野浩二、横光利一である。現代の評価軸とは大きく異なる。つまり、川端が見えて、現代見えなくなっているものが確実にある。

 ある世代があまりにも基本的な前提と思って言及しなかったために、その次の世代に引き継がれなかったものがある。前の世代からすれば言うのも野暮なもの、しかし次の世代には全く未知なもの、歴史は難しい。

 川端康成などは、野暮と知りつつ、戦後必要性を感じて、次の世代につなぐ仕事をし続けたわけで、私たちにとっては大変有難い人となっている。

(2012.8.29)

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