対象を愛する

 対象を自分のところまで引きずり下ろすような愛し方と、対象を自分より気高くするような愛し方とがあって、芸術はもちろん後者である。対象はつねに自己にとって、あくがれる自己以上の存在である。
 私たちは弱いので、いつでも飛ぶのをやめようとする。隙あらばこの低い地平にいたがる。しかしその弱さに対象までつきあわせてはいけない。対象は美しく飛ばせてやらなければならない。

 対象は空の果てに遠い。私たちは淋しい。けれど私たちがなすべきなのは、そこまで自己を高めることだけである。

(2014.9.23)

This entry was posted in Essay. Bookmark the permalink.