人文学の教育

 大学で教鞭をとって四年目、基本的にずっと問いかけるだけの講義をしてきた。私はこう思うが、あなたはどう思うか、でしか授業を結んでいない。

 大学における人文系の学問の目的とは、一定の知識の習得ではもちろんない。人文系の学問は人間の歴史をかさねた思考すべてを扱う。その広大さ深遠さを本気で理解してもらうのが一番大切な目的なのである。小さな入り口をひらく、と言った方がよい。

 あとは各々の人生で、問いの答えを追究してもらいたい。教員としてはむしろ、二、三十年かかって一つの答えが導き出せるような、長い問いかけができるのが理想だと思っている。二、三十年かけて、わかった人は私に教えて欲しい。ずっと待っている。

 毎日沢山の問いかけをはなって、すぐわかって終わってしまった問いも無数にあるだろう。でもその問いには私自身がわからないことが沢山含まれている。わからないことを学生に問うているといってもいい。わからないが、人間の生にとって、大切だと感じることばかりだ。

 学問も芸術も孤独なものだが、教育の場は、共に考える幸せがある。私自身の問いが、ほのかな余韻のように遠く年下の人たちに残っていたら、人文学の教員としてはとても幸せなことなのである。

(2014.4.17)

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