人文学の意味

 菊池寛の「後世なんてものは信じない」という言葉に、志賀直哉は、自分はその逆だという感慨をもらしていたが、まあ、現在、菊池の思想が完全に勝ったわけである。そう痛感することが多い。それで人間が幸せになれるとは思えないが。

 人文系の学問とは、すぐに俗物的な権威主義と無責任な経済原理に流れていく社会の中で、自己の精神を高潔に保つために、最も必要な学問ではなかったか。

 お金があっても、権力があっても、優しい家族がいても、人間は不幸な時がある。その逆であっても、幸福を感じる時がある。そんな単純な人間の原理をきちんと知っているのが、人文学ではなかったか。

 人文系を蔑ろにするようなことを言う人には、「あなたは幸せか」と問いたい。教養云々ではなく、人間とは何か知っている人は、決して人文系の発想を馬鹿にしない。

 一人の人間が晩年に見る風景というものを、私たちは絶えず考えておく必要があるのだ。

(2013.9.20)

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